北海観光節小さな旅行記森と生きるin占冠

森と生きるin占冠 その2

14時30分,村のバスで次のイベント<森を観る>に出発する。

バスは占川橋の上で停車した。

 

ここで2009年の9月に鵡川を遡上してきたサクラマスについて,山本さんから説明を聞いた。

国道から道道に入りトマム方面に向かう。途中,今年4月にオープンした鹿の解体施設.,ジビエ工房「森の恵み」の前を通過した。

バスの後ろにはマイカーが10台ほど連なっていた。マイカー利用者は「泣く木」の駐車場に車をとめ,ここからバスに合流して,見学地へ向かった。

<森を観る>

道道沿いの村有林。44年生トドマツ人工林の受光伐が行われた現場である。説明は引き続き,田畑室長が担当されていた。

この一帯は人工林であるが,広葉樹も適度に入り込んでおり,村としてはかつて植えられたトドマツを活かしながら,将来的に針広混交林への誘導を図っていく方針だという。そのために,いまやるべきこととして,光を入れるための間伐を行ったとのこと。山脇先生も「何千年も放置すれば原生林に戻るが,放っておけばよいというものではない」「ここは近自然ができますよ」と感心されていた。

集材するには道をつけなければならない。フォワーダ,ハーベスタといった高性能林業機械があればもう少し攪乱を防ぐことができるというが,村にはブルドーザーしかなく,どうしても地面の攪乱が生じる。それで次善の策として,木に青テープで印をつけて集材路を指定し,最低限の道で集材をするよう指示している。黙っているとあちこちに道がつけられ,かつてはもっと荒っぽいことになっていたという。また,このような傾斜地では伐採後の水の管理が重要であり,作業後には素掘りの水みちをつけて土壌の流出を防いでいる。

土場には玉切りされた木材が積まれていた。このうち製材として利用されるのはいちばん左に積んである丸太だけで,右の3列は全部パルプに回されるという。トドマツはかなり太くていい材だと思ったが,腐れが入っているので製材としては使えないという。トドマツは標準伐期齢が50年程度とされ,それを超えて老齢になると腐朽しやすくなるというが,44年生でもほとんど製材として使えないとは厳しい現実である。

参加者から,そもそもなぜトドマツを植えたのか,カラマツとトドマツはそれぞれ何割くらいの割合かという質問が出ていた。その場で答えられる人は誰もいなかったが,調べてみると,北海道における人工林の樹種内訳(面積)は,国有林ではトドマツ67.8%,カラマツ15.2%,民有林(道有林,市町村有林含む)ではトドマツ39.8%,カラマツ39.0%である。占冠では国有林率が大きいこともあり,トドマツが圧倒的に多い。

ではなぜトドマツを植えたかということであるが,まず,エゾマツは北海道では倒木更新により自生することが可能であるが,人工的に苗圃で育成しようとする場合,病害に侵されやすく非常に難しいのだという。昭和30年代〜40年代当時,植林用の樹種として技術的に確立していたのは,ほぼトドマツとカラマツに限られていた。さらにカラマツは信州原産でもともと北海道にはない木であったので,国有林としては基本的にトドマツを植える方針としていたということのようである。

カラマツは成長が早く堅いので,炭鉱の坑木用として民有林で好んで植えられ,現在では乾燥技術が進んで建築用製材としての用途が拓けつつあるが,トドマツはカラマツに比べて機能的に劣り,パルプ材や間柱など端柄材として利用が主でその径を活かす利用法が見出されていないのが現状である。そうこうしているうちに,国の再生可能エネルギー固定価格買取制度によって,木材が発電向けに供給され始め,あっという間に山から木がなくなるということも起こりかねない。

占冠は苫小牧の王子製紙へのパルプ材供給基地として開発された経緯がある。製材工場(木工場)もあるにはあったが,多くは本社が旭川や富良野で,製材業が斜陽化すると占冠から撤退していった。そういうこともあってか,今日の説明を聞いていても木材を製材として使うという発想にはなりにくいようである。しかし,木はせっかく太くなったのなら,木端微塵にされるパルプではなくて,なるべくその太さを活かした材として使われるのが本望ではないだろうか。これから,村の木で作った家なども少しずつ出てくれば良いと思う。

続いて,道路向かいの村有林に移動した。こちらも同じく44年生のトドマツ人工林である。

最近,本数基準で30%の間伐を行ったばかりだという。間伐の際には,鵡川側は河畔林としての役割を持っているのであまり手を加えずに凍裂で傷んだ木のみを伐り,道路側を主に伐ったこと,それと,手間はかかるが,なるべく残された木を傷つけないよう枝を切り落とし幹だけにして集材を行う「全幹集材」を選択したという説明があった。

そのすぐ隣では皆伐が行われていた。もとはカラマツ46年生,ストローブマツ45年生の造林地だったが,高齢になって腐ってきたため,このままにしても価値がなくなるだけであり,であればパルプなりに使ってもらえるうちに伐ったほうが良いという判断で皆伐したとのことである。

ただ,村有林としては民有林の見本とならなければならないため,伐った後はすぐ植える方針としており,ここでは,占冠村開基110年の記念植樹として,10月20日にイタヤカエデとカシワの苗木が植えられる予定となっている。

村としては今日はかなり気を使って,恐らくいちばんいい部分を見せてくれたのだと思うが,それでも参加者からは,「イタヤカエデとカシワの2種類だけなのか」「イタヤカエデは村木だということでわかったが,なぜカシワなのか理由がわからない」「せめて2種類だけではなくもっと植えたほうが見た目も良いのでは」「周囲の天然更新している森を参考にすれば,少なくとも10ぐらいの樹種が候補に挙がってくるはず」「今までの林業のやり方だとこういうことになるので,根底を覆せば何でもできるはず」「苗木の種はどこから入手したのか確認したのか」「(3,4年でけっこう大きくなった苗を植えると聞いて)そんなに大きくなっている苗は養分をたくさんやっているはずだから植えても根付かないのでは」などと,厳しい意見が出されていた。

そういう理想を実践して,森づくりがうまくいっているところはどこかにあるだろうか。昨年,富良野市の東大演習林の一般公開セミナーに参加したが,原生林の状態から大学が一貫して管理し,採算度外視で,恐らく最も理想に近い森づくりをしているように思われた。そこでは天然林施業といって天然更新の力を活かしながら,成長した分だけをいちばんいい時期に伐って利用するというやり方が試みられているが,それがうまくいっているかと言えば,すべてでうまくいっているわけではないようである。今日のように現実的な施業を見る一方で,東大演習林のような理想を追う難しさを見る機会も,もっと市民に与えられるとよいのにと思う。

 

15時10分から15時50分まで,40分ほどの見学を終え,バスで「不思議な泣く木」に戻ってきた。泣く木には今では立ち寄る人も少なくなったが,乗用車が10台ほど駐車できるスペースがあるようだった。

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