北海観光節小さな旅行記石狩,胆振,日高,国境を巡るバス旅

石狩,胆振,日高,国境を巡るバス旅 その3

2017年10月28日(土)

どんころ自然学校前9:18頃(フリー乗降)→営林署前10:06 占冠村営バス トマム線 下り1便

 

占冠と幾寅をトマム経由で結ぶという,走っていること自体が奇跡のようなバス。占冠から南富良野高校に通う高校生の需要があるのだろうが,さすがにこの便は,ほかの乗客と居合わせたことがない。

まもなく,しばらく道道に沿ってきたルウオマンソラプチ川が東へ分かれていく。この奥に富良野広域串内牧場がある。被災後の9月3日,視察に訪れた石井国土交通大臣に,南富良野町長が「牛が900頭孤立しているのです。牛を助けてください」と涙ながらに訴えたのは,この場所である。

石狩から十勝へ最もなだらかに越えられるのは,この川沿いにあった旧十勝街道である。鉄道,国道ともあえてこのルートを外しているのは歴史上の謎とも言われてきたが,こうして被災の様子を見ると,当時の測量技師もまたこのルートに何らかの危険を感じたのだろうかと想像を巡らせてしまう。

川の名はトマム川と変わり,JR石勝線串内信号場の横を通過。この辺はあまり被害を受けていないように見える。わずかな地形の差が大きな被害の違いを生んでいる。

非常になだらかな石狩と胆振の国境。標高564メートル。

狩振国境をなす道。正面に標高1323メートルの狩振岳がそびえる。左に降った雨は日本海へ流れ,右に降った雨は太平洋に流れる。

道東自動車道トマムIC。1995年に十勝清水ICが供用開始したあと,2002年3月に夕張へ向け着工,2007年10月にトマムIC〜十勝清水ICの峠越え区間が開通した。胆振と十勝は国境を接しておらず,いったん石狩に入った後,狩勝国境をトンネルで越えている。大雨被害で道央と道東を結ぶ交通網がことごとく寸断される中,道東道は雨が収まってから丸1日で開通している。

上トマム市街。写真右手は占冠村立トマム学校で,今年の4月から小中一貫の義務教育学校となった。道内では3例目だという。

一時の勢いを失いつつあった上トマム市街であるが,この冬のクラブメッド北海道トマムの開業を控えて,にわかに住人が増えているという。地区内には居酒屋が2件,新たに開業したそうだ。

トマム地区唯一の食料品店だった平岡商店は閉店したが,店舗跡はミナトマムとして地域の交流や直売に活用されている。

トマムのガソリンスタンドは2013年に閉鎖されていたが,この10月20日,公設民営の形で営業再開を果たした。過疎地における同様の形態でのガソリンスタンド設置は伊達市大滝区に続いて道内2例目である。

ただし,営業は週3日,各日12時から15時までと短く,観光客にとっては心もとない状態が続く。

道東自動車道は由仁PAから釧路まで,200km以上にわたりガソリンスタンドがない。ガソリンが足りなくなった車が,トマムICで降りてガソリンスタンドを探そうとしたものの,ガス欠を起こしてしまう事例はけっこうあるという。

そういう場合どういうことになるか。ロードサービスに加入していたとして,最寄りの自動車修理工場などに救援の要請が入ることだろうが,ときには100km近く離れたところから救援に向かわなければならないケースが少なからずあるという。それでも来てくれればよいが,真冬などは死に直結する問題だ。

便利そうな自動車交通も,このような危うい基盤の上に成り立っていることを知らなければならない。

トマム駅では9時32分発の帯広行きスーパーとかち1号が到着したところ。村営バスのトマム着が9時31分だから,乗り換えは基本的に無理と思ったほうが良い。

旧へち地5級校の下苫鵡小学校跡は馬と羊の牧場になっていた。へき地5級というのは,日本でも最上級の秘境であることの証。そこを,半世紀近く前と同じダイヤで路線バスが通っているのは,実はものすごいことなのである。

 

終点の営林署前に到着。占冠に営林署は存在しないので,どこに停まるかと思ったら,木質バイオマス生産組合のヤードに乗り入れて停まった。バスはここで折り返し,再び役場前に達するまで営業運転を続ける。

営林署前バス停の200メートルほど先に,道東道占冠ICの入口がある。大雨被害による日勝峠通行止めのため,昨年9月1日より占冠IC〜十勝清水IC(10月14日までは帯広音更IC)間の代替路(無料)措置が取られている。

 

占冠ICで一旦降りて,入り直せば無料措置が適用されるため,Uターン禁止の番小屋が設置されていたが,今日13時の日勝峠開通と同時に無料措置が終わるので,ちょうど小屋が撤去されているところだった。

 

インターチェンジ横の国道には臨時駐車場が設置されていた。大型車でも安全に転回できるよう,村が善意で周回道路を整備したものである。この臨時駐車場も,今日の13時以降は意味不明のものになるだろう。

インターから1kmほどのところに,道の駅自然体感しむかっぷがある。実際のところは,道の駅で一休みするドライバーも多く,これは村にとっても悪くはないことだったように思う。

道の駅はサイクルステーションとして貸出用の立派な自転車が何台も用意されていた。冬は太タイヤのファットバイクの貸出しも始めるという。占冠村サイクルツーリズム推進実行委員会の取り組みの一環である。

かつて駅前物産館やニニウのサイクリングターミナルにあった原始的な自転車のことを思うと,隔世の感だ。

役場前のバス停。占冠村営バスの富良野線,トマム線,日高町営バスの占冠線,いずれも国境を越える路線が3方向に延びている。

この地のバス路線の最初は,大正12年(1923年),「三国横断バス」が,仁世宇から日高,占冠を経由して金山まで結んだのが最初で,戦時下の昭和18年(1943年)に道南バスの運行となった。以来,日高〜金山間で道南バスが長く運行を続け,昭和42年(1967年)には,現在のトマム線の前身となる落合〜ホロカトマム間に路線が新設されている。その後,昭和48年10月1日に村営バスに移管された際に,双珠別〜富良野間,占冠(中央)〜落合間(後に幾寅まで延長)の運行となり,以来45年間,ほとんど変わらないダイヤで運行が続いている。

一方,日高方面は昭和50年まで日高〜双珠別間で道南バスが運行を続けた後,日高町営バスに移管され,双珠別で日高町営バス・占冠村営バス相互の乗り換えを行うダイヤとなっていたが,昭和56年10月の石勝線開通を機に,日高町営バスが占冠駅前まで運行区間を延長している。


双珠別でパスが連絡していた当時の時刻表(道内時刻表,昭和50年7月号)

次へ