東京旅行記

大相撲観戦

せっかく東京に行くからにはと,朝イチの飛行機で釧路を出てきたのだが,「さあ東京に着いた」といっても,これから何をするかはまったく決めていない。

そういえば今は相撲をやっている。今日は13日目だから各段の優勝も決まってきて盛り上がる頃だ。最近は相撲も人気がなくて,満員御礼がなかなか出ないそうだから,たぶん当日券でも入場できるだろう。目的もなく東京をふらつくよりは,今日はじっくり腰をおろして相撲でも見たほうが良さそうだ。

ということで,急きょ両国国技館に大相撲9月場所を見に行くことにした。

巡業は何回か見に行ったことがあるが,本場所は初めてである。実は私は中学校から高校にかけて相撲にはまっていた。私から相撲を取り去ったら何が残るのか,と言われるほど熱中していた。
したがって両国国技館での本場所観戦は,もう十数年越しの夢で,本来もっと思い詰めて来るべきところだったのかもしれないが,意外にあっけなく夢は達成されてしまった。


総武線で両国駅へ。ホームからは国技館と江戸東京博物館が間近に見える。駅は国技館の専属駅といった感じ。


やっていました,大相撲。チケットもかなり売れ残っているようで,難なく買えた。大相撲のチケットはいろいろ難しい手続きを踏まなければ手に入らないものと思っている人が多いようだが,意外と簡単に買えるものだ。このあたりをもっとPRすれば,もっとお客も入るのではないだろうか。
本場所では勝負審判のほか警備なども親方が直接担当しており,チケットのもぎりにも親方衆が座っている。私はインテリ力士として知られた元大関琴風の尾車親方にチケットを切ってらって入場した。

とりあえず館内を一周してみた。相撲博物館はたいしたことがなかった。相撲茶屋は団体客相手で個人客には関係のないところだということがわかった。これらの茶屋は江戸時代から続くものらしいが,これから先も大丈夫なのか不安にさせる雰囲気があった。
一般客相手のお土産屋はテレビに映ることのない別のところにあった。しかし何でも高い。ジュースは200mlのパックや250mlの缶が150円もする。
館内でも増井山や旭富士,隆三杉,花ノ国といった元力士とすれ違ったが,声をかけたりサインを求めたりする人がいるわけでもなく,実に普通に仕事をしていた。


14時30分頃の館内。2階自由席の14列目というのは,一番後ろの列だった。そんなに遠くもないし,気楽に見れるのがいい。
幕下の取り組み中で,まだ観客はまばら。行司は既に十両格が上がっており,照明は明るくなっている。この日幕下優勝が決まった。


とりあえず昼食。相撲を見ながら食べるならやはり「幕の内弁当」だろう。

取り組みのほうでは,北海道出身の幕下・若天狼と十両・琴冠佑が勝った。私が応援したせいではないと思うが,道内出身力士が勝つのは嬉しい。来場所は琴冠佑と若天狼が十両と幕下を入れ替わる形で,道内出身関取の座が維持できそうだ。そもそも私が相撲を見はじめたきっかけは,北勝鬨(キタカチドキ)の親戚だという友人がいたからである。


幕内土俵入り

ところで,両国国技館は昭和60年1月の完成で,春日野理事長が借金をせずに建てたことで知られるが,建築的にも高度な技術が取り入れられている。空調も良く考えられており,両国国技館はたいへん気持ちが良かった。また,音響的にも独特の対策がとられているようで,観客の声や行司の声がよく響く。勝負がつく瞬間の歓声の反響はすごいもので,これはテレビ中継ではわからないものだ。それとテレビではあまり気にならなかったが,報道陣のフラッシュがすごかった。


横綱土俵入り後に行われる,顔触れ言上。翌日の幕内取り組みが紙に書かれて,立行司により読み上げられる。相撲中継ではこの時間帯に特集をやるので,テレビに映ることはほとんどない。
ところで,現在立行司はこの式守伊之助1名で,木村庄之助は空位である。現在伊之助の次位である木村庄三郎は,美瑛町の出身である。立行司は必ずしも年功序列で昇進するとは限らないので,なんともわからないが,美瑛から立行司が出るとなれば名誉なことだ。恐らく来年の1月場所に新しい庄之助と伊之助が誕生するだろう。


後半戦に入って熱気は増してきたが,結局満員御礼の札は下がらなかった。懸賞はこの日いちばん多かった琴光喜−隆乃若戦でも8本。それでも呼び出しが2巡した。千代の富士時代から貴乃花時代に移り変わる頃には,20人くらいの呼び出しが1巡してまだ足りないくらいの懸賞がかかったのだから,なんとも寂しい。


はね太鼓の調子に乗って国技館を去る。太鼓の音は両国の街に見事な「音風景」をつくっていた。
私の好きな本に第二十六代式守伊之助(茶原宗一)著の『情けの街のふれ太鼓』がある。高校2年のときに出版されたのだが,旭川の書店では手に入らず,修学旅行で東京に来て池袋の旭屋書店でやっと見つけた。修学旅行での唯一の収穫と言ってよいものだった。
こうして街に響き渡る太鼓の音を聴いていると,あらためて『情けの街のふれ太鼓』というタイトルが胸に染み入った。

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