東京旅行記

柴又

"わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します"

私は人ととことん趣味は合わないほうである。「映画は見るか」と聞かれれば,「映画館には行かないが,邦画はテレビでよく見る」と答える。この時点でもうほとんどの人と趣味が合わない。それで何を見るのかと聞かれれば「『男はつらいよ』だ」と答える。少し映画を知っている人なら,「私も『釣りバカ日誌』は見ますよ」と話を合わそうとしてくれるが,私は「釣りバカ日誌」は面白いと思わないから,ここで話は途切れる。

しかし,国民的映画といえば「男はつらいよ」である。この映画が好きな自分は別に変な人間ではないと思うのである。何年か前に札幌のそごうデパートに「男はつらいよ」の巡回展が来たが,けっこう若い人も来ていた

「男はつらいよ」の舞台である柴又は,今回特に来てみたかったところだ。これまでは東京の真ん中をぐるぐる歩いていたが,柴又は東京の端のほうにある。

上野公園から鶯谷駅−日暮里駅−綾瀬駅−金町駅−京成金町駅−柴又駅と乗り継いで,柴又へやってきた。ここまで来ると東京いえども列車の本数が少なくなり,乗換えにも時間がかかる。


京成電鉄柴又駅。関東の駅百選に認定されている。意外に利用者が多かった。


駅前の寅さんの像


駅前はすぐ帝釈天参道になっている。寅さんの実家はこの参道沿いにあったようだ。


参道の先は帝釈天。日蓮宗の題経寺というお寺である。大道芸が行われていた。


帝釈天からさらに5分ほど歩くと,江戸川の堤防に出る。川のこちら側が東京都,向こう側が千葉県。

"♪つれて逃げてよ・・・
  ついておいでよ・・・
  夕ぐれの雨が降る 矢切の渡し〜"

細川たかしは昭和58年,この曲でレコード大賞を受賞し,紅白でトリをとった。
その「矢切の渡し」は,柴又にあるのである。

 
江戸川の両岸を2隻の渡し舟が結んでいる。船着場には「矢切の渡し」の歌碑が建っていた。

  
船に乗る人は年配の人中心で,私は乗るのをためらったが,職場へのお土産に「矢切の渡しもなか」を買ったたてまえ,話の種に乗っておかねばなるまいと,勇気を出して乗った。(結局,帰ってから矢切の渡しに乗ったのかと聞かれることはなかった)
船頭さんが櫓をギコギコこいでいく。実にのどかな雰囲気で「日本の音風景100選」にも選ばれているという。


対岸の堤防に出ると,ねぎ畑が広がっていた。まるで別世界だ。久しぶりに見る畑に感動した。


葛飾柴又寅さん記念館。ここには入らなかった。

再び,帝釈天参道に戻る。


寅さんの実家「くるまや」のモデルになったというだんご屋・高木屋老舗。とりあえず,あんこのいっぱいのっかった草だんごを1串買って,店先で食べた。

お腹も空いてきたので,このあたりでどこか店に入りたかった。今の時代に柴又を訪れる観光客などいるのだろうかと思っていたのだが,やはりギネスブックにも載る映画のロケ地だけあって,観光客は多かった。そして,定食屋にしても寿司屋にしても値段が高い。それでも中を覗いてみると観光客でびっしりだ。
その中にあって,大和屋という店は割と空いており,「一人なんですが・・・」と申し訳なく入っていくと,「どうぞ空いているお席に・・・」と愛想良く迎えてくれたので,ここで食べることにした。

 
この店,のれんに「天丼・天ぷら」と書いてあるが,店内にメニューはなく,とりあえず「天丼があるんですか?」と聞いて,天丼を頼んだ。本当にメニューは天丼と天ぷらだけらしく,ビールも何もないらしい。店頭でも「天丼と天ぷらだけなんです」て言って,客を何人か断っていた。食べている間に店内は私だけになってしまったし,大丈夫なのだろうか。
天丼は素晴らしくおいしかったし,お茶も大きな急須で出てきたので,ごくごく飲んだ。メニューがないから天丼の値段も払うまでわからないわけだが,950円に消費税がついて997円。千円札を出すと,7円サービスで10円のお釣りをくれた。
こんな店もいつまでも残っていてほしい。

柴又では,矢切の渡しに乗って,草だんご食べて,天丼食べて,大満足。今回の東京旅行の中でも特に来て良かったところだ。

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