北海観光節旅行記旅ならば東北

大曲全国花火競技大会 その2

18時50分の夜花火の部開会までしばし休憩。休憩時間になると雨が上がった。

年頃の女の子たちは,この日とばかりに傘もささず浴衣姿で歩いており,濡れて色増し艶やかである。わたしも彼女たちとそんなに年が違うわけではないのだから,合羽なんか着ないで少しは色気を出さねばと思うのだが,旅行中の身でずぶ濡れになると後の始末が悪い。

桟敷席の様子。桟敷席から見る花火は迫力が違うというが,立見がかなり出ているように見える。このような雨では板張りの席は始末が悪いだろうし,写真を撮るなら少し引いた土手からのほうが良いだろう。桟敷席の手前にずらりと並んでいる箱はトイレ。

 

18:50 夜花火の部開始

ナイアガラ付大スターマインで夜花火の部開始。

競技大会は全国27の煙火店で争われ,それぞれ「十号割物」2発と「創造花火」を順番に打ち上げていく。

最初に標準審査玉が打ち上げられ,その点数が会場内に発表される。以後の花火はその点数を基準にして採点されていくわけだ。

競技が始まる。最初のうちは,今のはさっきよりも良いとか,これは打ち方が良いなどとみな自己流に解説をつけながら見物するのだが,4発目くらいになると,もう迫力にあっけを取られてぽかんと口をあけて眺めるのみとなる。

実は大曲の花火大会は規模はそれほど大きくはく,玉の数,玉の大きさは往年の十勝毎日新聞花火大会のほうが上である。大曲は質で勝負なのである。一流の花火大会の最後を飾る大スターマイン,これが大曲の場合最初から最後までずっと続くと考えればよい。

10号割物。いわゆる尺玉で,写真機の視野に入らないほどの大きな広がりを見せる。

創造花火はテーマを設けて花火を構成するもので,曲に合わせて打ち上げるものが多い。これは花火の玉も見事だが,打ち上げ方に妙がある。花火師の意気込みが直に観客の心に響き,観客はただオーとかアーとか感嘆の叫びを上げるのみである。

競技の合間に東北電力,JR東日本など企業提供の仕掛花火が打ち上げられる。

観客席は南北約1.5kmに及ぶが,打ち上げ場所も南北かなり広範囲に及ぶので,どのあたりに座ってもそれなりに見ることはできるが,やはり真ん中に近いのに越したことはない。見る場所を選ぶときに気をつけなければならないのは風向きで,玉の数が多いため,風向きが悪いと煙でほとんど花火が見えないことがある。今日座った場所は割りと良い場所だったと思う。

そして最高潮に達するのが大会提供花火である。大会提供花火を見るために大曲にやってきたという人も少なくないようで,この花火こそが大曲が世界に誇る至宝の芸術的花火である。もう日本で,ということはすなわち世界で,これ以上の花火はないのである。数箇所から同時に打ち上げられ,約5分にわたって続くこの劇的な花火は,その様子を文章によって表現できるようなものではなく,ただこれが人間のなせる技なのかと驚くばかりである。

 

大会提供花火が終了したのが20時50分頃。この頃から帰り始める客も出てくる。

それにしても写真ではわからないと思うが,ひどい雨である。花火を見上げると目も開けられないほどで,さっきからちょうど花火の打ち上げを狙い撃ちするかのように豪雨が降りかかる。 これは63万の観客の普段の行いのせいだろう。環境破壊を続けながら繁栄する人類に対しての地球の仕打ちだ。

北海道でこれだけの雨が降れば花火大会は即中止になるはずである。これでもなお花火を続けるのはさすがは辛抱強い東北だ。観客数も過去最高をわずか1万人下回るだけだったという。大会を順延もしくは中止にできないのには,団体客への影響やNHKBSで生中継されるという事情もある。

天気予報で雨が降るのは確実と思われたので,わたしはできうる限りの雨対策をした。まず,昨日盛岡のコンビニで上下の雨具を購入しておいた。これで体の濡れは完全に防ぐことができた。また今日昼のラーメン屋でタオルを持っていくべしという話を聞いて,コンビニでタオルを購入した。これはカメラを保護するのに重宝した。敷物には札幌の東急ハンズで折りたたみ式の携帯座布団を買っておいたのだが,これは意外と座りごこちが良く耐水性もあって正解だった。

失敗したのはまずカバンだった。わたしのカバンは完全防水性でありその防水効果は実証済みなので,まったく安心しきって雨にさらしておいた。しかし購入してから7年,経年劣化によりゴムに細かなひびが入り水がしみこむようになっていたのである。予備のカッパをカバンにかぶせたが。そのときは既に手遅れで,時刻表や今日購入した本がぐしょぐしょになってしまった。もうひとつの失敗は靴で,内側にスポンジの入った革靴のため水がタポタポにたまってしまい,翌日以降非常に苦心することになった。

最後は10号割物30連発の大スターマイン。はじめのうちは名残を惜しむようにゆっくりと打ち上げられ,終わりは怒涛の連発。観客60万の唸り声が夜空に響く。

ほぼ予定通り21時25分打留。会場にはラストソングが流れ,対岸では花火師さんがライトを持って手を振っている。プログラムには「ペンライトをご持参ください」とあったので,わざわざ旅行に出る前に電気屋でペンライトを買ってきたのだが,ペンライトを振っているのは桟敷席にいる一部の熱心な観客だけ。土手で見ていた人は皆帰ってしまった。この小さな光が花火師さんまで届くかどうかわからないが,わたしは一人でライトを振った。

静かになった土手 ゴミの山 露店

汽車の発車まで時間があるので,花火大会の余韻に浸ってしばらくその場に佇む。観客数は例年並だったようだが,この雨では焼き鳥や焼きそばを食べるという状況ではない。各露店では売り物が大量に余っており,ただでも良いから持っていかないかと差し出されたが,始末に負えないので丁重にお断りする。

人が引いてから帰路に向かったが,途中から前に進まなくなってしまった。行きはみんなばらばら来るが,帰りはいっせいに帰るので渋滞するのだ。

大曲駅前。左から奥羽線秋田方面,奥羽線横手方面,田沢湖線,新幹線盛岡方面立席,新幹線秋田方面立席,新幹線指定席の順に列を作っている。横手方面がいちばん長い列を作っているようだった。


わたしは新幹線の指定席なので並ぶ苦労知らずで,するすると改札を通ることができた。


ホームにも人がたくさん。

大曲23:25発→盛岡0:26着 こまち864号

席はいちばん後ろだったが,壁といすの背もたれの間に立席の人が入り込んできてあずましくなかった。

雨の盛岡。盛岡は雨の降り方さえも魅力的である。冷麺でも一杯と思っていたが,ずぶ濡れなので,まっすぐ宿へ向かった。

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