北海観光節旅行記旅ならば東北

釜津田 その2


折り返し地点の外山バス停。

ここでバスは一休止。運転手さんがわたしに声をかけてくれた。カメラを持っているのを見て「写真を撮りに来たの」と尋ねられたが,写真を撮るというほどの立派な腕は持ち合わせていないから,景色を見に来たのだと答えておいた。さらに話しを続けたが,運転士さんはわたしが「北海道には山奥がない」と言ったのを意外に思ったらしい。

正確に言うと,北海道にも山奥はあるのだが,人が住んでいる山奥がないのである。昔は住んでいたのだろうが,とうに離農してしまっている。典型的なのがニニウや長和である。わたしがこうして岩手の山村を好んで訪れるのは,ニニウや長和のかつての姿が重ね合わさるからである。

大川筋に戻る。

運転士さんは「北海道にはこういう道はないでしょう」と誇らしげに言う。「ありませんねぇ〜」と返す。

運転士さんが「ここ面白いから見てみな」と,通り過ぎたバスをわざわざバックさせて見せてくれた家。チェーンソー一本で木を彫っているという。どこかから移住してきた人なのかと思ったら,もともとここにいる人だという。

「次は釜津田です」の放送がかかったので,降車ボタンを押す。運転士さんはわたしが終点まで行くものと思っていたようだ。「終点まで行かないで,ここで降りて神社でも見てきます」と告げて降りる。

バスはこの次の「唐地」ですぐ折り返して来る。釜津田ではもともと5分しか時間がなかったが,バスが少々遅れていたので実質3分しか時間がない。


バス停の前にあった看板。これまで通ってきた道は「大川渓流ロード」という愛称がついているようだ。

岡山神社

 

時間がないので,石段をタタタタタタッと駆け上がり,二礼二拍一礼の参拝を2秒で終える。祠をあけると賽銭箱があったが,財布を取り出す時間さえ惜しかったので,賽銭をあげずに降りてきてしまった。これでは何のために釜津田まで来たのかわからない。後で大いに後悔した。

バス停に戻ってもうあと1分くらい時間がありそうなので,商店街を見てこようと思ったが,そのときばつが悪いことに向こうからパトカーが見えてきた。ここで変な動きをとって職務質問でも受ければ面倒なことになるので(やましいことは何もないが),慌ててバス停へ引き返し,「気をつけ」をしてパトカーを見送る。

釜津田17:03発→岩手大川駅17:35着  岩泉自動車運輸 大川・釜津田線 岩手大川駅行

無事帰りのバスに乗車。当然乗客はわたしだけ。


釜津田の店。店は何軒かあって小商店街をなしており,どの店にも風格と重みを感じた。しかしよそ者が入るのには勇気がいりそう。

過疎化は進んでいるのだろうが新築中の家もあり,廃村の危機は当分なさそうである。

運転士さんによれば,この川の沿線は「岩手でも最も遅れていると言われている」そうだ。わたしは「やった」と思った。岩手でも最も遅れているということは,日本で最も遅れていると言っても過言ではないだろう。遅れているというのは決して悪い意味ではなくて,素朴な山村の生活風景が残っているということである。これで「お前,山奥に行ったことはあるか」と聞かれたら「はい,あります」と自信を持って答えられる。


釜津田小学校。学校は立派である。

運転士さんによれば昭和30年にはこの川筋に4800人もの人が住んでいたという。それが平成12年の国勢調査では1000人に減少したのだとか。数字はわたしのうろ覚えなので確かではないが,こうした数字がすらすらと出てくるあたり,運転士さんはかなり教養のありそうな方である。いろいろなことを知っていそうだったが,運転中に話しかけるのは迷惑かと思い,ただ運転士さんが話してくれるのを聞くだけで,わたしのほうから何かを尋ねるということはしなかった。わたしは必要以上に遠慮深いところがあり,このことでいままでずいぶん損をしてきていると思う。


大川市街の貫禄ある何でも屋。

岩手大川駅前到着。ここまで乗客はわたしだけ。「どうもありがとうございました」とだけ言ってバスを降りる。「またいつか来ます」喉もとまで出かかったが,また来れる自信がなかったので言えなかった。

3分間でのバス→列車接続で,通常ならば接続不能と判断すべきダイヤであるが,先のサイトの管理者様からほぼ間違いなく接続になるとの意見をいただいていた。

岩手大川17:38発→茂市18:12着 岩泉線 茂市行普通列車

列車に乗り込むと,さっきの車掌さんがやってきて,茂市駅で切符が見つかったので着いたら駅事務室に行ってくださいとのこと。切符が見つかって良かったが,茂市駅に連絡を取ってもらえたことが嬉しかった。

 

押角トンネルを通っている間に窓が真っ白に曇ってしまった。押角駅に到着する前に東側のボックスにさっと移動し,窓を開けて写真を撮る。他のボックスの人たちもみな窓を開けて写真を撮っており,多いところでは向かいのボックスの人も加わって1つの窓から3つくらいのカメラがのぞいていた。まったくすごい人気である。さっきの下り列車でも押角で下車した旅行客が1名おり,さらに駅で列車を撮影するカメラマンが2人いた。さっき降りた人は乗ってこなかったが,そのあとどうしたのだろうか。

茂市駅。駅では老紳士の駅長さん(たぶん)が待っていた。「落としたのはどのような切符ですか」「切符は何に入っていましたか」「そのケースには切符と一緒に何か別のものが入っていませんでしたか」と本人確認のための質問を受けて,無事切符を受け取った。

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