ホームで汽車を待っていると,駅員さんが話し掛けてくれた。
「こんなところ珍しいでしょう。あそこに給水塔が残ってるでしょう。写真を撮りに来る人も多いんですよ」
「今日はずっとこの沿線をまわっているんです」
「ありがとうございます。それではこれから宮古のほうへ?」
「いえ,盛岡に戻ります」
「えっ,盛岡?」
「あっ,えーと腹帯まで行って戻ってきます」
腹帯駅到着。
駅前にあった看板。「おはごあことば」は初めて聞いた。
宮古から来た列車から高校生が1名下車。
松草到着。
「あっち(宮古のほう)行きます」
「かー,最終で。ご苦労様です」
「ちなみにこの列車は区界で交換しますよ」
「いや,ここでしばらくのんびりしていきます。どうも」
昼と通ったときは駅前に集落があった気がしたが,駅前は真っ暗である。
暑くも寒くもなく,春なので虫もいない。外に出れば星がきれいだ。気持ちの良い待ち時間を過ごした。
平津戸到着。
車掌さん曰く「ここで降りて大丈夫ですか?」
「だいじょうぶっす。バスで盛岡に戻りますから」
おそらく浅岸や大志田よりも松草や平津戸で下車する人のほうが珍しいのだろう。
山田線の終列車は静かに発車した。
駅舎はふるさと銀河線の川上駅に似た趣だ。以前は駅の一部が商店になっていたそうだが,現在はなくなったようだ。
夜のためもあろうが周辺に明かりはまったくなく,星空が見事だった。こんな星を見たのはニニウでキャンプしたとき以来ではなかろうか。
両手を回して 帰ろ 揺れながら
涙の中を たったひとりで
作詞:東條寿三郎 作曲:阿部芳明 歌:三橋美智也「星屑の町」より
真っ暗なのでバス停を探すのも一苦労。駅前すぐにあったのだが,カメラのフラッシュをたいてようやくバス停だとわかった。
すぐ下には川が流されているようで,ザーザーと音がする。私は水の音が嫌いなのであまり長居はしたくない。しかしバスが早く来る恐れもあるので,バス停から離れるわけにもいかない。念仏を唱えながらバスを待つ。
バスもこれが最終便である。乗れないと非常にまずいのだが,真っ暗なバス停で待っていて果たしてバスは停まってくれるだろうか。
定刻より少し遅れてバスが見えた。おーい,おーいと大きく手を振る。バスは停留所を少し過ぎたところで停まった。ほっとした。
数名の乗客を乗せて区界峠を越える。バス停「県庁・市役所前」からは疲れたサラリーマンたちも乗ってきた。連休中に夜遅くまでお仕事お疲れ様です。
21時55分。盛岡到着。
今日の夕食は「三千里」という店で。辛い温麺800円+ライス(あきたこまち)200円。この店はあまり良くなかった。
大通アーケード街を歩いてホテルに向かう。今日は平日で次の日が休みのため繁華街が賑わっている。私も夜の街をそんなに知っているわけではないが,帯広と広島は最悪である。札幌も悪くはないがせわしない。松江はしっとりとしていて良かったが賑わいが足りない。その点,盛岡は最高である。
しっとりと落ち着いていながら活気に満ちている。心配事とか妬み事とかいろいろ余計なことを考えていても,通りを歩いているとふっと体の力が抜けて自然体になれる。この癒されるような雰囲気は何から来るものだろうか。ずっとここの空気に浸っていたい気がした。