北海観光節旅行記東京クリスマス

キャロルの夕べ

御茶ノ水駅前。やけに人が多い。何かイベントでもあったのかと思ったが,これが日常の風景なのだろう。逆に今日これまで歩いてきたところが東京にしては静か過ぎたのだ。


丸善の前では掘り出し物のセールをやっていた。民謡のCDを一枚買う。

今日はクリスマス・イブである。日が暮れるとキリストの誕生を祝うミサが始まる。その邪魔をしてはいけないので,明るいうちに教会を訪れておく。

ニコライ堂


日本ハリストス正教会東京復活大聖堂。献金箱にお金を入れると,黄色いろうそくをもらった。既に火がついているろうそくから火を分けてもらい,燭台に捧げる。他の拝観者同様,椅子に座ってしばし休む。聖像は遠目では何が描かれてがいるのかわからないほどに黒ずんでいた。函館に同類の教会(函館ハリストス正教会)があるわけだが,やはり函館のほうが風格あるように感じた。

歩いて神保町へ向かう。途中,日大や明治大があったが,これはもうキャンパスとはいえないような建物群で,これらと比べれば早稲田はいくぶん恵まれているといえそうだ。

神田古書店街

神田古書店街は東京に来るたびに訪れているが,最近は古本も食傷気味である。釧路に良い古本屋ができたので,仕事帰りに毎日のように立ち寄り,その度に何か買うので本がたまってどうしようもない。

とりあえず書泉グランデの6階にご挨拶。神田古書店街も3度目となればだいぶん要領を得て,ピンポイントでいくつかの店に入って回る。早稲田の古書店街と比べてみて,やはり神田の古本屋は格が違うと改めて思った。秦川堂書店で地図2点購入。

神田古書センターの9階に富士レコード社という名前を見つけたので入ってみた。この店ではSPのレコードを多数扱っており,伊藤久男や東海林太郎がトップスター扱いで堂々と並んでいた。しかも安い。これらの人の歌は一部しかCD化されておらず,音源の入手には苦労する。際限がなくなるのでレコードには手を出すまいと思ってきたが,ちょっと心が動いた。

クリスマスキャロルの夕べ

クリスマスにまつわる有名な文学にディケンズの『クリスマス・カロル』がある。今回旅行するにあたり,読んでみた。

「僕はクリスマスがめぐって来るごとに――その名前といわれのありがたさは別としても,……もっとも,それを別にして考えられるかどうかはわからないけれど――とにかくクリスマスはめでたいと思うんですよ。親切な気持ちになって人を赦(ゆる)してやり,情ぶかくなる楽しい時節ですよ。男も女もみんな隔てなく心を打明け合って,自分らより目下の者たちを見てもお互いみんなが同じ墓場への旅の道づれだと思って,行先のちがう赤の他人だとは思わないなんて時は,一年の長い暦をめくって行く間にまったくクリスマスの時だけだと思いますよ。ですからね,伯父さん,僕はクリスマスで金貨や銀貨の一枚だって儲けたわけじゃありませんが,やっぱり僕のためにはクリスマスは功徳があったと思いますし,これから後も功徳はあると思いますね。そこで僕は神様のおめぐみがクリスマスの上に絶えないようにと言いますよ!」

これまでクリスマスの意味を深く考えたことはなかったが,クリスマスというのはそういう日だったのだ。

キャロルという言葉は,遠くギリシャ語で「輪になって踊る」を意味する言葉に語源を持ち,現在ではクリスマスキャロルといえばキリスト生誕の不可思議に素朴に感動し,それを高らかに宗教的な喜びを込めて歌い上げる祝歌のことをいう。代表的なクリスマスキャロルは「サイレント・ナイト」である。

きよしこの夜 星はひかり
救いのみ子は まぶねの中に
ねむりたもう いとやすく

岩波神保町ビルの前ではクリスマスキャロルの夕べと題してコンサートが始まった。

共立女子高校の音楽部員がクリスマスソングを歌う。黒髪の女子高生の澄んだ歌声が街角に響く。女子高生というのはその存在だけで人々を幸せな気持ちにさせてくれるものである。これは良いものを聴かせてもらった。終わりにいかにも人の良さそうな理事長さんが挨拶した。

その後キャロルの夕べは第2部に移り,仮設テントでシャンパンなどが振舞われていた。

これから東京駅方面に向かう予定だが,神保町で食事を済ませておくことにする。


ニューポートというとんかつ屋。「ロースカツ定食750円」と張り紙がしてあったので入ってみる。

年配のご夫婦が経営している店で,聖夜にふさわしく厳粛な雰囲気であった。店内の張り紙には次のようなことが書かれていた。

「食事をしながら読んだりおしゃべりをしたりしないで下さい,食事はしっかり食べてください。ご協力下さい。」

「一万円札は完全お断りです。一万円札の方は両替を済ませてから注文してください。」

祈るような気持ちで定食を静かにいただく。特製ソースとマスタードをつけたとんかつは美味だった。


神保町から都営三田線で1駅,大手町駅へ向かう。

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