当初の予定より1時間半ほど佐原を早く出ることになったが,この先どうするか,列車に乗って時刻表と格闘した。
とりあえず温泉に行こうと思う。その後夕食をどうするか。大晦日の夜だからまともな食堂は開いていないかもしれない。かといって一年の納めにコンビニ弁当というのもあまりにも寂しい。そうだ空港へ行こう。飛行機の時刻を調べると22時まで出発便があり,飛行機に乗る人たちのために食堂も開いているはずだ。
成田駅着。
夕食までまだ時間があるので駅構内のNEWDAYSでパンを買う。ここの店員が最悪だった。差し出したお金をむしり取り,品物を放り投げるように渡された。人の顔も見ていなかったから誰に対してもそういう態度なのだろう。
次はローカル線だと思ったら,10両の長大編成だった。
成田から1駅目の下総松崎駅に到着。
これから大和の湯に行く。大和の湯というのはこの地方唯一の本物の温泉である。唯一の天然温泉となれば,周辺から温泉亡者が群がり,浴客にもいろいろ面倒な人が多そうである。わたしもこうして旅行記で行ったことを公開する以上,この温泉に行ったことで後ろ指を差されることになりはしないかと危惧したが,実際スーパー銭湯を含めて他に適当なところがないので,やむを得ずここにした。
暗い道を延々歩く。狭い道だが,ライトを晧晧と照らしたヤクザな車が道を駆けて行く。恐らくみな温泉に行くのだろう。だいたい大晦日の夜,本来は家族そろって年越しそばを食べるべきときに,こんな山の中の温泉に入りにくるというのがヤクザである。それはわたしも他人のことは言えない。地図で調べてきたので道は間違いないはずだが,ほんとうにこの先に温泉があるのだろうかと不安になってきた頃,前方に建物が見えた。
駅から20分ほどで着いた。まわりには車がびっしり止まっている。どれも高級車ばかりで,車を見ただけで我侭そうな浴客が多いことが察せられる。
しかし実際入館すると思っていたのと印象は違った。建物はきれいで,フロントも都会的なセンスの良い感じだった。
早速,浴室に入る。服を脱ぎ,浴室のドアを開けると,だーっと男ばかりずらりと並んで,洗い場も浴槽もびっしりである。この大晦日に温泉に入りに来る暇人がよくもこれだけいるものだ。いちおう場所を見つけてシャワーで体を流し,浴槽に浸かる。お湯は一目で温泉とわかる黒い湯で,舐めてみるとしょっぱい。これは温泉の成分だけではなく,男たちの体から滲み出たエキスが多分に含まれているであろう。本物の温泉はいいが,その許容能力を超える利用者がいると,さすがに本物の温泉も濁ってしまう。
早々に湯から上がり,念入りにシャワーを浴びて浴室を出る。温泉分析表によると,18.1℃の湯を地下1000メートルから動力揚湯して沸かしているらしい。本物の温泉とて,あまり恵まれた源泉とはいえない。日本は温泉天国だというが,これがこの地方唯一の温泉であるというのもかわいそうである。
しかし施設は立派である。受付の人も親切だったし,これだけ混雑しているにもかかわらず浴場や脱衣室はきれいに清掃されていた。手作りの周辺地図なども配布しており好感が持てた。しかし何せ客が多すぎるのが悪い。わたしもそれに加担してしまったことを申し訳なく思う。施設のホームページを見ても我侭な客の対応に苦慮している様子がうかがえるが,客につぶされないように頑張ってほしいものである。
上野発10両編成の電車。
さて,夕食を取るために空港へ向かう。成田空港はもちろん初めてだが,時刻表を見て「空港第2ビル駅」と「成田空港駅」があることに気づいた。どちらで降りればよいのかわからなくて困ったが,時刻表を見ると第2ビルのほうに日本の空港会社が入っているようだったので,第2ビル駅で降りた。
ホームからエスカレーターで上がると自動改札機があり,次に有人の改札を通った。そしてさらにその先で検問を受けた。パスポートを見せれという。パスポートがなきゃ空港に入れないなんてことはないだろうと思って尋ねると,身分を証明できるものがあれば良いというので運転免許証を見せた。見学のため空港ビルに入りたい旨告げるとビルの案内図をくれた。しかし愛想も何もない。
閑散としているが,これから出発する飛行機もまだあり,ちらほらと旅行者の姿もある。
読みは当たって,食堂街は大晦日のこの時間でも営業していた。しかし「空港のメシは高くてまずい」という評判どおり,どの店も市価の2倍ぐらいの値段を吹っかけている。
その中でも比較的手ごろな価格だったこのラーメン屋に入った。このラーメンとチャーハンのセットが1280円。20時で注文締め切りだったようで,食事中に店の片付けが始まった。わたしが今年最後の客になったわけだ。
展望デッキ。誰もいなく,外の気温以上に寒々しい。
東京には23時半頃着けばよいので,もうすこしどこかで時間をつぶさなければならないのだが,空港ビルはベンチに座っていても警備員がうろうろ巡回してきてどうもあずましくない。とりあえず駅のホームに場所を移した。
ホームの椅子で本を読んで30分ほど過ごした。世間では紅白歌合戦の第2部が始まる頃である。この2年ほど年末に旅行をし,駅の待合室などで少しの間でも紅白歌合戦を生で見ることができたのだが,今年はそれもできなさそうである。
これから東京方面に向かっても喧騒が嫌なので,ぎりぎりの時間まで空港に滞在することにした。
とりあえず下りの最終便で成田空港駅に向かう。成田空港駅では上り最終列車まで約40分の待ち合わせとなるが,この列車が折り返し列車になるはずなので,そのまま列車に乗って本でも読んでいればよい。
成田空港駅。この時間に空港ビルに入るのはどうみても怪しいので,改札は出ずにすぐに列車に戻った。
11両編成の列車はがら空きだった。荷物を列車の中に置いて写真を撮っていると,私服警官と思しき人に,危ないから荷物を体から離さないでと注意された。ずいぶん物騒な世の中になったものだと思ったが,たしかに我々日本人は平和ボケしているかもしれない。