北海観光節旅行記めざせ奥州,汽車旅千里

初日の出

代々木3:27発→上野3:53頃着 山手線・東北本線外回り普通列車


代々木駅へ急ぎ,山手線の列車に乗る。危機一髪,間に合いそうである。

上野駅。電光掲示板に「新年明けましておめでとうございます」の文字が流れる。本当はもう2つぐらい神社に行きたかったが,欲張ってはいけない。明治神宮に行けただけで十分である。上野駅に時間までに着けて本当に良かった。

16番ホームに常磐初日の出号が入線。

上野4:15発→湯本7:11着 常磐線 快速常磐初日の出号


お座敷列車「ゆう」6両編成。

 

快速列車だが全車グリーン車のため,青春18きっぷや北海道&東日本パスは無効。これまで5日間旅してきて旅費は1万円ちょっとで済んでいるのに,わずか3時間の乗車で5470円は高い。他の乗客はグリーン車用の正月パス(JR東日本のグリーン車が1日乗り放題で13000円)を利用している人が多いようだった。

指定券は1ヶ月前の発売開始日に取ったが,その時点で5号車1Dと2Dの2席しか空いていなかった。それほど人気の高い列車だとは思わないし,団体用に席を抑えてあったのだろうか。しかし実際の乗客の顔ぶれを見ると,団体らしい団体はいなく,1人旅か小グループがほとんどだった。

しかし,やはり鉄道マニアが多い。見た感じそれとわかる純粋な鉄道マニアが50%くらい,隠れ鉄道マニアを含めればほぼ100%が鉄道マニアといっても良いだろう。やはり元旦の夜中から列車に乗って初日の出を見に行こうとするということは,皆多かれ少なかれ鉄道が好きなのである。

ところで,鉄道マニアにもいろいろな流派があるが,一つの分類として陽の鉄道マニアと陰の鉄道マニアという分け方があると思う。陽のマニアというのは,動くもの,機械的なものに興味を示すという男の本能の発現としての鉄道マニアで,彼らは汽車旅自体にはあまり興味はなく,列車を撮影することに熱心であり,列車に乗るとしても,新幹線や新鋭特急,蒸気機関車などあくまでも動く機械として魅力あるものに限られる。イベントのときなどには時にサークルや同好会の仲間で徒党を組み,その存在は目立つが,一方,自らに苦行を強いることになる夜行列車の車内では彼らの姿を見ることがない。

一方,陰の鉄道マニアというのは,日常生活の中では自分を受け入れられてもらえるところがなく,最後の心の拠り所として鉄道を愛している人たちである。駅員や車掌は誰に対しても親切であり,列車はいかなる時も定時で動いている。その絶対的な安定感が彼らに安心感を与えているのである。彼らは汽車で旅すること自体を楽しみ,狭隘な車内空間を苦ともせず,そこに自分だけの空間をつくり,時には夜行列車で何連泊というような旅をする。また哀れなローカル線や,朽ちゆく木造駅舎をいとおしむ。

この列車に乗っているのは大方「陰」のマニアである。一人一人の行動を見ていると,非常に個性的である。

・バックからぬいぐるみをいくつも取り出し,自分の周りに並べて悦に浸る者。

・車掌を神様のように崇め奉り,車掌が車内を通る度に何かを話し掛けずにはいられない者。(この列車の車掌は彼らの問いに嫌がることなく親切に答え,まことに立派であった。)

・近くの客に自分の同類項を見つけ出し,旅行談義に花咲かせる者。

しかし,迷惑なのはいわゆる「音鉄」と称される人たちである。彼らは耳にヘッドホンをし,棒の先につけたマイクを天井のスピーカーに当てて車掌のアナウンスを録音する。できるだけ雑音の少ないところを探そうとしているのか車内をあちこち歩き回り,人が座っているところにも勝手に入り込んで録音を始める。

そうしてざっと車内を見渡してみると,みんな若い。概ねわたしより年齢が下に見える。わたしが鉄道旅行を始めたのは8年前,大学1年のときで,そのころは周りは大人ばかりと思ったのに,いつの間にかわたしも年長者の部類に入ってしまった。大学1,2年生の頃には皆車を持っていないこともあって,大概の人が青春18きっぷでの汽車旅を経験するものだが,3,4年生になる頃には多くの人が鉄道離れをし,社会人になってもなお鉄道離れができないのは変人である。わたしも「まともな人」を目指すならば早いうちこの世界から足を洗わなければならないと思う。

さて,うつらうつらとするもつかの間,空が白み始めた。


6時15分。雲一つない空。これはきれいな初日の出が期待できそうである。


6時46分,大津港−勿来(なこそ)間の勿来の関付近で停車。「ここでしばらく初日の出をお楽しみください」と車内放送があった。「えっ,ここかい」と思った。目の前に太い電線が何本も走っているのだ。

 
パトカーや護送車も停まっている。


6時48分,日の出。

この瞬間,カシワ手を打つ人,お天道様に向かって深々と頭を下げる人。みなそれぞれのやり方で新年を迎え,車内は厳かな雰囲気に包まれる。


これは素晴らしい。これほどすっきりした日の出を見たのは初めてである。


6時57分,太陽が昇りきったところで,列車は発車。

10分あまりで終点湯本到着。車掌から「本日は初日の出が見れましたことを心よりお喜び申し上げます。」と放送があった。これは高いお金を払って列車に乗っただけの価値があった。


乗り換え客で賑わう湯本駅。

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