北海観光節旅行記ディスカバー阿寒

ホテル風月

川湯温泉には小学4年,5年のとき2年続けて泊まったことがある。2001年に就職で釧路に来て久々に川湯を訪れると,かつて泊まったホテルは廃業しており,温泉街は不景気で冷え切っていた。しかし,すべての温泉旅館が源泉かけ流しで,強酸性の泉質も素晴らしく,川湯の温泉につかると身も心も蘇った。私は毎週のように川湯温泉に通った。

そのような類い希な温泉であるから,私は川湯温泉は数年で大変革を遂げるだろうと確信していた。

たしかに川湯温泉は変わった。足湯ができて立ち寄りの観光客が増え,各温泉旅館では「かけ流しの湯」の垂れ幕を掲げるようになった。雑誌で川湯温泉の特集が組まれることも珍しくなくなり,レジオネラ感染や偽装温泉事件など温泉の問題が起こるたびに,川湯温泉の評価は上がった。

しかしこれは思っていたほどの変わり様ではない。川湯温泉が持っている素質からすれば,この程度の注目度で満足していてはいけないのである。

ホテル風月

川湯で真っ先に向かったのはホテル風月。ある筋からここの風呂は素晴らしいという情報を得ていた。

実は今年2月にも来たのだが,玄関が閉まっていて入れなかったのである。ところが今日も戸が開かない。やはり廃業したのか? たしかに外観は廃墟のようでもある。

にゃろめと思ってもう一度力を込めると,ギギッと戸が動いた。どうやらたてつけが悪かっただけのようである。

ブザーを押して宿の人を呼び入浴料を払う。宿の人は別に私を珍しそうに見るわけでもなく,すぐにまた中に戻っていった。

まあ,たしかに割と最近リニューアルされたらしく,外観の印象からすれば立派な風呂である。

しかし浴室には焼け付くような熱気が蔓延しており,換気扇もないようである。たまらず,窓を少し開けると,すうっとさわやかな風が入ってきた。

ハッとして見上げ.ると,天井に大きな排気塔がついていた。

外から見た,排気塔。ああ,何と素晴らしいことだろう。

温泉はお湯が良ければ良いというものではない。料理も重要だし建物も重要である。しかし,建物となると満足できるものはほとんどない。浴室に入るなりムッとくる熱気,騒々しい換気ファン,ぽたりぽたりと天井から落ちてくる不潔な滴,浴場から出るときのぬるぬるした床。露天風呂に人気が集まるのはこうした内風呂の不快さの裏返しであろう。

私はかつて恐山の共同浴場で本物の温泉を発見した。そこは総木造の簡素な建物で,浴槽の四周がかけ流しになり,側窓からさわやかな空気が入り越屋根から抜けていた。

越屋根なり排気塔をつけて,窓を開ける。なぜそんな簡単なことができないのだろうか。

通常機械で浴場の換気を行う場合,湿気が脱衣室に漏れるのを防ぐため,排気ファンのみをつけて室内を負圧にする。しかし扇風機の裏側にいても涼しくないことからわかるように,排気ファンでは気流感が得られない。しかも,給気口の配置が考えられていない場合が多いので,換気量も不十分になりがちである。

ところが換気塔をつけた場合,お湯が熱源となって煙突効果による換気力が生じる。しかも,冷たい空気は比重が大きいので,窓から流入した外気は床面に沿って移動し,さわやかな気流感が得られるのである。

何でも機械に頼るのは別に温泉に限ったことではない。本当に暑い日に車のエアコンを入れるのはわかる。しかしさほど外気温が高くなく,窓を開ければ気持ちよい風が入ってくるときでも,臭いエアコンをつけっぱなしにする。列車もそうだ。窓を開ければ涼しい風が入ってくるのに,多くの乗客は窓を閉め切ったまま扇風機を回して耐えようとする。シックハウスの問題だって,みんな窓を開けないから出てきた問題で,それで必ず機械換気設備を設けなさいというような変な法律ができたのだ。

そんな変な世の中にあって,ホテル風月の風呂で一つの希望の光を見たような気がした。

お多福食堂

 

夕食時になったので,とりあえずまだ入ったことのないこの店に入ってみる。ここは当たりだった。中華丼セット850円。中華丼は「あんかけ」のかわりに半熟の卵がかかっている変わり種だった。

アイヌ踊りの宣伝カーが温泉街をぐるぐる回っていた。

川湯温泉もいくつかのエリアにホテルが分かれている。クッシー通りと呼ばれるこの通りの周辺は太平洋炭鉱,郵政省,北洋相互銀行,北電等の保養所が集まる保養所街だったが,今ではすべて閉鎖されている。


保養所街の裏手には七店街というスナック街がある。


セトナ民芸店

おみやげ長井

香雪民芸

各ホテルに張り付くようにしてお土産屋も立地している。これらのお土産屋の近くには,観光ホテル,第一ホテル,きたふくろう,KKRがある。


川湯観光ホテル前の足湯。

川湯の中心部に店を構えるお土産屋。

ウィンドウショッピングをするだけでも楽しい。

川湯は木彫りの本場であり,お土産屋で売っている木彫りは実に素晴らしいものである。最近は熊やニポポよりもふくろうやコロポックルが人気らしい。

ただ気になるのはお土産屋がやたらに安売りしていることである。こちらが求めてもいないのに,いきなり何割も値引きしてくれる。「札幌だったら倍はするよ」とか言っているが,これだけレベルの高い木彫りを「安さ」だけを売りにして良いものだろうか。私も観光地ではなるべくお土産屋を回ることにしているのでわかるが,川湯温泉の民芸品は間違いなくレベルが高い。もっと自信を持って質の高さを売りにしたほうがよいのではないだろうか。

だいたい川湯温泉は自虐的に過ぎるところがある。はじめ「湯の川温泉」名乗ろうとしたところ,函館に同名の温泉があったので逆さにして川湯にしたといわれ,泉質は「草津と同じ」だという。つまり川湯の前に湯の川があり,草津があるわけて,自分たちがいちばんだという意識を持っていないのである。

泉質,湯量に恵まれ,お土産屋もたくさんあり,これほど情緒のある温泉街は,はっきり言って北海道には川湯温泉しかないのだから,もっと誇りを持ってもらいたいものである。


川湯にもカニ屋がある。

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