北海観光節旅行記29歳の北東北

青森県立美術館

美術館関係では,昨年は金沢の21世紀美術館と群馬の富弘美術館に注目が集まったが,今年はこの青森県立美術館が話題を独占している。

遺跡から美術館へは林の中の散策路を歩いて行くことができる。

美術館の外観。遺跡の発掘現場のような「土の大きな溝」に「凸凹の白い構造体」をかぶせるというイメージで設計されている。

美術館のメインエントランス。どう見ても裏口にしか見えないが,中に入ると展望タワーのエレベーター乗り場のような小さなホールがあった。

どうすればいいのかと戸惑っていると,案内係が近づいてきて,「観覧ですか? それではこちらで券をお買い求めください」と言われた。

そうは言われても,まずは空間の全体像を把握しなければ落ち着かないのが男の性分である。

総合案内所はどこかと問うと,「こちらで承ります」という。案内図でも示して教えてくれればよいのだが,聞いたことにした答えてくれないので,「ミュージアムショップはどこですか」「レストランはどこですか」「コインロッカーはどこですか」と次々に質問を浴びせると,さすがに案内係も「あなたはいったい何がしたいのですか」と怒り出しそうな様子が見てとれたが,わざわざ聞かなければわからないような仕組みをつくるほうが悪いのである。

普通は玄関ホールに入ると,展示室の入口が見えると同時に出口も見えて,ミュージアムショップやレストランも玄関から見える位置に置かれるのである。そこで,ミュージアムショップでは買い物にどれくらい時間がかかりそうか,レストランはどんな雰囲気か確認する。食事をするならその分見学を早く切り上げなければならないし,食事をしないなら帰りのバスを1本早めることも考える。そこまで全部計算した上で,今度は展示室を回る時間配分を考えるのである。それを,いきなり券を買わせてエレベーターで展示室に押し込むというのは,あまりにも乱暴ではないか。

ともかくいきなり展示を見る気分にもなれないので,いったん外に出てミュージアムショップとレストランを覗いてみる。

 

ミュージアムショップはオリジナルの商品も少なく,あまり魅力的ではなかった。レストランも混みそうだったら先に食事をと思ったが,そんな感じもなさそうなので後にする。

さて,展示室に入ろう。展示室に限らず館内は一切撮影禁止,展示室へのカバンの持ち込み禁止,再入場も禁止とあり,新設の美術館にしてはずいぶん保守的である。

展示室は純白の壁・床・天井で構成され,明確な順路が定められていない。これは金沢の21世紀美術館とよく似ており,最近のはやりのようである。

しかし,順路がないように見えて,実は明確な順路が定められており,その順路に沿って歩かなければすべての展示室を見ることができないのである。いちおう順路を記した地図が配布されているものの,地図に載っている「A,B,C,D,E」という展示ゾーンの記号が,実際の展示室には掲げられていないので,地図を見て自分の位置を把握するのは極めて困難である。観覧通路の分岐点には案内員がおり,いちいち案内員に尋ねなければ進む方向が定まらない。そこで勝手な方向に進むと,今度は「お客さん,お客さん」と呼び止められて,方向を正されるのである。だったら「順路→」のような看板でも置いといてくれたほうがありがたいのだが。

企画展のテーマは「縄文と現代」だったが,最後にどうしてもテーマとの関連が理解できない作品があった。

案内係にテーマとの関係を問うと,「わかりません」という。芸術というものは無理に理解する必要はないと思うが,それでも美術館の解説員は見学者に何らかのヒントを提供するべきで,「わかりません」とはひどいのではないか。結局,展示室にうじゃうじゃといる係員は,単なる「交通誘導員」なのである。こんなのは病院のように床に青や赤のラインで矢印を引いておけば事足りることだ。市民ボランティアが解説員を務め,こちらが求めなくても説明をしてくれる21世紀美術館とは大きな違いである。

別の場所では,荒木経惟氏の「青森ノ顔 縄文ノ顔」展が行われていた。良い内容だったが,入口が非常にわかりづらく,見学者は皆無に近かった。

既成の美術館の概念に縛られることはないし,観覧者を混乱させることを建築のコンセプトにするのであれば,それはそれで一つの考え方だとは思う。しかし,それによって展示物を見る観客の心を乱し,さらには荒木展のように観客から展示物を見る機会さえも奪ってしまうのは,展示物を制作した芸術家に対して失礼なのではないか。

「Cafe 4匹の猫」でお昼ご飯とする。慣れぬ手つきの給仕が,津軽鶏カレー(1180円)を運んできた。

厳しい感想を書いてしまったが,所詮は30万人都市の美術館であり,過度な期待を持って訪れたのがいけなかったかもしれない。旭川や帯広の道立美術館と比べてみれば,たしかに注目すべき美術館ではある。

県立美術館12:35→青森駅12:55着 美術館シャトルバス

青森駅へは路線バスのほかに,直行のシャトルバスが運行されている。車両はJRバス東北のものが使用されていた。

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