北海道観光大全作者紹介めざせ奥州,汽車旅千里

挿入歌解説

わたしは旅行中に音楽を聴くということはないが,頭の中ではその場面に合わせた音楽がいつも流れている。旅の思い出は音楽とともにあり,その音楽がテレビやラジオから流れてきたりすると,旅行中のことが思い出されてくる。

今回の旅行記の中にもそうした曲の歌詞をいくつか挿入した。それらの歌は日本歌謡史上にさん然と輝く名曲中の名曲であるにもかかわらず,現代においてはともすれば忘れ去られかけているのではないかと危惧するので,それぞれ若干の解説を加えておきたい。


明日はお立ちか 作詞:佐伯孝夫 作曲:佐々木俊一 唄:小唄勝太郎 昭和17年

小唄勝太郎(1904-1974)の代表曲の一つで,DAMのカラオケには小唄勝太郎の曲として「島の娘」とこの曲が入っている。戦争が激しさを増し歌謡界も軍国ムード一色になる中で,「表面は出征兵士を送る女心を歌いながら,哀れ深い女心の嘆きを詩情豊かに歌い上げた佐伯孝夫の,戦時下における詩人の魂が暴露された名作品(下記CD解説より)」とされる。横浜情報文化センターの放送ライブラリー所蔵の「なつかしの歌声 年忘れ大行進(1969.12.31)」で勝太郎が「明日はお立ちか」を歌う姿を見ることができるが,このとき勝太郎は風邪を引いており,声がややかすれている。それでも還暦過ぎてなお人形のような姿でスタンドマイクの前に立ちしっとりと歌い上げる様子は一見の価値がある。

■収録CD
(1)  「昭和を飾った名歌手たち(6) 島の娘/小唄勝太郎」 ビクター,1999.1,1800円


旅笠道中 作詞:藤田まさと 作曲:大村能章 唄:東海林太郎 昭和10年

東海林太郎(1898-1972)の代表曲の一つで,現在までさまざまな歌手に歌い継がれている。最近では氷川きよしが「股旅演歌名曲選」というアルバムに吹き込んでいる。
昭和になって登場した「股旅物」,その中でも「道中物」と呼ばれる当時流行したジャンルの歌である。こうした歌がヒットした裏には日本が日清・日露戦争の成功におごって大陸侵攻を企てていたという時代背景がある。
真山神社からバス停へ下る場面では4番の歌詞から「情けないぞえ 道中時雨」を挿入した。本当なら歌のとおり「どうせ降るなら あの娘の宿で」と続けたかったが,わたしにそんな宿はない。
夜が冷たい,心が寒い・・・と歌詞は非常に暗いが,曲調は明るく歌詞から受けるイメージと歌を聴いたイメージはまったく異なる。このギャップがヒットした理由であろう。このギャップは三波春夫が歌うと一段と際立ち,「月がわびしい路地裏の」と言いながらニコニコしながら歌う「チャンチキおけさ」に通じるものがある。

■収録CD
(1) 「昭和を飾った名歌手たち(8) 東海林太郎/赤城の子守唄」 ビクター,1999.1,1800円
(2) 「三波春夫 2003年全曲集」 テイチク,2002.10,3048円
(3) 「股旅演歌名曲選 氷川きよし/箱根八里の半次郎」 コロムビア,2000.6,1800円
ほか


水郷音頭 作詞:藤田まさと 作曲・編曲:長津義司 唄:三波春夫 昭和41年

千葉県のどこかの自治体の依頼を受けて吹き込んだものらしいが,詳細は不明である。下記CDに収められた数々の音頭の中でも特に明朗な調子で聴き心地が良い。三波春夫(1923-2001)は自治体や企業の依頼をうけて数々の音頭やテーマソングを吹き込んでいるが,北海道関連では昭和42年に小樽潮音頭,同44年に釧路の新港まつり音頭を手がけている。当時「東京五輪音頭」や「世界の国からこんにちは」の大ヒットで国民的歌手と呼ばれていた三波春夫に依頼するあたりに,小樽や釧路の景気の良さが偲ばれる。潮音頭,新港まつり音頭とも現在も夏の祭りで市民に踊られているが,三波春夫ほどの歌い手はこの先もう出ないであろうから,これからも永遠に踊り継いでいってほしいものである。

■収録CD
(1) 「三波春夫 日本全国歌めぐり」 テイチク,2003.4,3048円


船頭可愛や 作詞:高橋掬太郎 作曲・編曲:古関裕而 唄:音丸 昭和10年

音丸(1906-1976)のデビュー曲であり,作曲家・古関裕而の初のヒット曲である。この曲はハ長調で洋楽器で演奏されているにもかかわらず江戸時代以前の古謡に通ずる趣を持っており「日本最高の歌謡曲」と評価する人がいるほどに素晴らしい。
なお,この歌における船頭は男性で,船頭(漁師)の帰りを陸を待つ女心を唄った歌とされる。
音丸は名前からすると市丸や勝太郎と同じ系統と思われるが,芸者出身ではなく,市丸,勝太郎,小梅が生涯うぐいす声を保ったのに対し,音丸は後年年齢相応の声になり味わいが増した。放送ライブラリー所蔵の「なつかしの歌声 年忘れ大行進(1969.12.31)」で音丸は「船頭可愛や」と「博多夜船」を歌唱しているが,着物姿にハンドマイクで体をゆったりと揺らしながら歌っている姿は圧巻であった。
下記CD(2)は戦後にステレオで吹き込まれたもの。14曲が収録されているが,いずれも贅を尽くした情感あふれる作品に仕上がっており,最高傑作のアルバムだと思う。

■収録CD
(1) 「SP盤復刻による懐かしのメロディ 戦前ヒット曲選〜船頭可愛や」 日本コロムビア,1993.4,2582円
(2) 「懐かしの歌声名曲集/音丸*船頭可愛や」  日本コロムビア,1994.11,1748円


大利根無情 作詞:猪又良 作曲・編曲:長津義司 唄:三波春夫 昭和34年

歌謡曲の中に浪花節の節回しと台詞が含まれており,三波春夫の歌の中でも最高傑作といわれるもので,紅白歌合戦では3度歌われている。三波春夫が亡くなって3年近くになるが,最近は女性歌手で歌い継ぐ人が出てきて嬉しい。「大利根無情」は島津亜矢さんが十八番にしているようである。

■収録CD
(1) 「三波春夫 全曲集」 テイチク,2003.10,3048円
ほか


松花江千里 作詞・作曲:植田国境子 唄:赤坂小梅 昭和11年

この旅行記のタイトル「めざせ奥州,汽車旅千里」はこの曲の2番

伸びよ同胞(はらから) 松花江千里(すんがりせんり)
住木斯チチハル 飛行機は通う
駒も嘶きゃ 月も照る月も照る

の「伸びよ同胞,松花江千里」をもじったものである。松花江は満州東部の大河である。この曲が発売されたのは日中戦争の開戦前で,当時このような満州の情景を描いた「満州もの」と呼ばれる歌が流行していた。歌詞は東部国境の様子を写実的に描きながら,女性が夫への思いを託している。
赤坂小梅の歌の中でもとりわけ軽快な調子で技巧に富み,小梅さんの天性の技量が遺憾なく発揮されている作品である。

■収録CD
(1) 「SP盤復刻による懐かしのメロディ 赤坂小梅」 日本コロムビア,1998.10,2800円


読んでいただきありがとうございました。

北海道観光大全