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様似山道

意外に険しい花の古道(2019.4.28訪問)

様似山道の歴史

17世紀中ごろ,シベリアから東へ領土拡大を続けていたロシアがオホーツク海沿岸に到達,18世紀半ばには毛皮にするラッコを求めて千島列島沿いに南下する動きが目立ってくる。1792(寛政4)年ロシアのラクスマンが対日修好通商を求めて根室に来航,1796~97(寛政8~9)年には英船プロビデンス号のブロートンらが内浦湾に停泊して上陸する動きもあり,幕府は1798(寛政10)年蝦夷地の大規模な調査に着手する。当時択捉・国後方面を調査した近藤重蔵らが,帰路広尾で高波により数日間足止めされたことから,陸路整備の重要性が認識されることとなった。

様似山道は礼文華山道,猿留山道などとともに,箱館から千島方面へ通じる陸路としてこのとき整備された山道の一つである。幕府の命により1799(寛政11)年5月18日着工,突貫工事により同年開通を見た。翌1800(寛政12)年には伊能忠敬が通行している。しかし高低屈曲が激しく,1802(享和2)年,当時東蝦夷地警備を命じられていた南部藩が改修工事を行った。

このあと山道の手入れは様似の会所が行ってきたが,海の穏やかな日には海岸が通行できたため,1869(明治2)年会所が廃止されると徐々に荒廃していった。1884(明治17)年山道沿いに電信線が引かれ,その保守に山道が使われたが,昭和2(1927)年沿岸に車道が開通すると通行者が激減した。その後も一部は生活道路として使用されたという。

幹線道路だけに伊能忠敬,松浦武四郎,榎本武揚ら歴史上の人物による多くの日記や絵図が残されているが,「様似山道」の呼称は1884(明治17)年様似山道からサマニカラマツを発見した宮部金吾の使用例がはじめとされる。

1979(昭和54)年以降様似町郷土史研究会により原田宿跡などの発掘調査が実施され,1985(昭和60)年,町の史跡に指定された。特に幌満からコトニまでは旧状をよくとどめており,2018年猿留山道とともに北海道ではじめて「道」として国の史跡に指定された。

様似山道を歩く

様似山道は様似町冬島~幌満間の日高耶馬渓と称される断崖の海岸を避けるため,山間に築かれた約8kmの道路である。途中のコトニで一度舗装道路に出るが,大部分が土の道である。滑りやすい箇所や渡渉があるので,雨の後は通行を避けたほうが無難だ。

日高山脈襟裳国定公園・幌満峡の河口にある幌満集落が東の入り口。バス停の近くには,山道開削に地元民として尽力した斉藤和助にちなむ和助地蔵がまつられている。1922(大正11)年まで渡船だった幌満川を国道の橋で渡り,河岸を少し上流に行くと山道入り口である。

幌満の和助地蔵
東側山道入口

ここからビラオンナイの沢を一気に登る。沢は石で埋もれ,足元が悪い。ここを下って歩くのは難儀なため,様似山道は幌満側から西に向かって歩くことが推奨されている。30分ほど登るとようやく山道らしい土の道となる。この辺りは山道本来の姿をよくとどめているという。高低差で100mほどをつづら折れで下り,ルランベツの川を渡渉する。足元を濡らすほどではないが,補助ロープを伝って細心の注意で渡らなければならない。再び急な登りとなり,尾根線に出ると「日高耶馬渓展望地」の看板がある。道標にしたがって山道から分かれて100mほど進んでみると,素晴らしい展望が開ける。

標高150mまで沢をひたすら登る。この部分の道は消失している。
日高耶馬渓展望地から襟裳岬方面を見る。

山道に戻るとしばらくなだらかな尾根線を歩き気持ちが良い。幌満入口から約3km地点に原田宿跡がある。1873(明治6)年から1885(明治18)年まで原田安太郎が旅籠を営んでいた跡で,4×7間の家屋跡が復元されている。

気持ち良い尾根道。3尺幅で山肌に刻まれた古道がそのまま残る。
旅籠のあった原田宿跡。

さらにコマモナイの沢,オホナイの沢,オイオイの沢を渡り,林道コトニ線に出る。先に渡る2つの沢にはかつて橋がかかっていたというが,沢の周辺は洗堀が進み,道を特定することができない。コトニの昆布干場は眺めがよく,小休所跡の碑が建つ。かつて休息のための小屋があったという。

ここから西の入口となるオソフケウシまでは,本来の道が消失している箇所があり,国の史跡からも除外されている。

小休所が置かれたコトニ。コンブ漁期以外はひっそりとした無人境。
電柱や碍子の遺稿が全線にわたって残る。フットパスのコースにもなっており,案内板はよく整備されている。

アクセス

様似~えりも・広尾間を運行しているJR北海道バス日勝線が利用できる。東側山道入口は幌満バス停からすぐ。西側山道入口は様似側に800m歩くと冬島バス停がある。また,西側山道入口からアポイ山荘やジオパークビジターセンターへは約3kmなので一足延ばしてみるのも良い。バスはアポイ山荘にも乗り入れる。

アポイ岳ジオパークについて

アポイ岳ジオパークは2015年にユネスコの世界ジオパークに認定されている。マントルが地上に現れた「幌満かんらん岩体」からなる幌満峡やアポイ岳を中核に,国の特別天然記念物にも指定されている高山植物群落や,様似山道を含めた歴史をテーマに加え,様似町内で完結するジオパークとなっている。アポイ岳登山口付近にアポイ岳ジオパークビジターセンターがあるので,様似山道と併せて訪れておきたい。近くのアポイ山荘では入浴,食事,宿泊が可能。

参考図書としては『アポイ岳ジオパークガイドブック』(北海道新聞社,2018)が詳しい。

様似山道でも野の花をたくさん見ることができる。
アポイ岳ジオパークビジターセンター