北海観光節小さな旅行記知床32時間

知床五湖

豪快なカーブを描いて岩尾別の谷へ下る。20年前にはまだ未舗装だったはずだ。谷の底には昭和42年まで岩尾別小中学校があり現在は近くにユースホステルが建っている。

バスの車窓は鹿やキツネであふれていた。

台地を一直線に突っ切る道は開拓地の名残。道路の両側はかつての農地である。

農家の廃屋もかろうじていくつか残っていた。車中の人は「景観を阻害するね」とあっさり言っていたが,この地にはそう簡単には片づけられない開拓の歴史がある。

現在,開拓跡地は知床100平方メートル運動の舞台として,全国からの募金により民有地が買い上げられ,植林が行われているが,パンフレットなどで伝えられているのは「大正以来数度にわたって開拓が行われたが,いづれも厳しい自然条件のために失敗に終わった」という事実のみである。「開拓の失敗」と片づけることは簡単だが,本当に考えなければならないことは,なぜこんな条件の悪いところまで入植しなければならなかったのかということである。大正,戦前,戦後のそれぞれの開拓において,成功しないとわかっていてもここで暮らさなければならないやむにやまれぬ事情があったのである。

知床五湖

知床自然センターから約15分で知床五湖に到着。カムイワッカまでのバス乗車券を持っていると,途中の停留所で自由に乗り降りできる。もちろん,知床自然センターから知床五湖を往復する利用も可能で運賃はその分安くなる。

……というようなバスの利用方法は現地に来て初めてわかったことである。ホームページや市販のガイドブックではカムイワッカを往復する利用にしか触れておらず,途中の停留所の通過時刻も載っていないのである。

せっかく環境に配慮して乗合バスで観光しようと思っても,これでは利用のしようがないではないか。

 

3湖〜5湖はヒグマ出没のため,常時立ち入り禁止の状態。

混雑する遊歩道。舞い上げられた土埃で,もうもうと煙っていた。

 

一湖。

険しい遊歩道。木の根も踏みつけられて痛々しい。

観光客の足元を見ると,まともな野外散策用の靴を履いている人よりも,むしろデパートに行くときのようなかかとの高い婦人靴や革靴を履いている人のほうが多いくらいだった。いったい何をしに知床に来ているのであろうか。

 

二湖。

お土産屋から緩やかなスロープで登って来られるバリアフリーの一湖展望台。

 

一湖のまわりは開拓跡地で現在はササ原になっている。北海道は大自然だ,原始の自然だというが,実際は最後の秘境といわれる知床でさえ,観光客が訪れるようなところには人の手が入った自然しか残っていない。

それでも,一時期世間を騒がせた知床国有林伐採問題は自然保護運動家の抗議で大部分が伐採中止となり,奥地へ行けば原始的自然環境が残っているのが世界自然遺産に登録された所以である。

知床五湖レストハウス。内部はほとんどお土産屋で占められているが,品揃えとしては摩周第1展望台や硫黄山,砂湯のレストハウスと比べてかなり劣る。

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