蔵王というのはどこにあるのかよく知らなかったが,北海道にいてもよく聞く地名だった。蔵王温泉は山形市の南東にあって,山形駅からバスで所要36分である。今日の旅は蔵王をメインに据えようと思う。
山形駅前バス乗り場。11時40分の便に乗る予定だが,11時20分の時点でこれだけ並んでいる。1台に乗り切れるか心配。すると,定期便の前に増発の臨時便がやってきた。ふつう定期便に積み残しが出た場合,それから連絡をとって,ややしばらくしてから臨時便が到着するものだが,先手を打って臨時便を出すという対応の良さに感心した。
標高約850mの蔵王温泉までぐいぐい標高を上げていく。周りは北海道と変わらぬ雪景色に。
高湯通り。車一台分の幅しかない急坂に,食べ物屋さんが軒を連ねている。こんなに湯の町情緒あふれる温泉街は今まで見たことがない。とりあえず適当な食堂に入ってラーメンを食べる。
13時00分。帰りは時間がなくなるかもしれないので,とりあえず温泉に入っとく。蔵王にある3つの共同浴場のうち,ここは川原湯。湯船の底がすのこになっており,その下から直接お湯が湧き出しているという正真正銘の本物の温泉だ。お湯は北海道の川湯温泉にも匹敵する強酸性で,わたしの大好きな泉質だ。昨日のことがあるのでちょっと心配したが,他には誰もいなく,酸っぱいお湯を存分に味わった。
歩いてスキー場のほうへ向かう。青空が見えてきた。これなら樹氷も見えるかもしれない。
地蔵山頂駅までの往復券。途中の樹氷高原駅でロープウェイを乗り継ぐので4区間券となっている。
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13時50分。標高860mの蔵王山麓駅。晴れてきたので混んでいるかと思ったが,そんなに待たずに乗れた。今の時期,樹氷見物の客はまだ少なく,スキーヤー,ボーダーの中に紛れて乗り込む。ロープウェイには詰め込めるだけ詰め込むので,東京の満員電車並の混み様だ。下り便に期待しよう。
標高1320mの樹氷高原駅に到着。見えてる,見えてる,絶景だ。
ここで山頂線に乗り換え。今の時刻14時00分だが,15時15分の整理券を配っていた。つまり1時間15分待ちという状況。その間適当に滑っていてくれという意味で整理券を配っているのである。
そこで切り札として登場するのが「樹氷観賞乗車整理券」。樹氷観賞目的の観光客はこの一枚の紙切れを見せるだけで待ち時間なしで山頂線に乗れてしまうのである。
樹氷高原駅から山頂方面を見る。ちょっと雲がかかっている。
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標高1710mの地蔵山頂駅に到着。北海道ではこんな高いところにスキー場はないはず。わたしが来た中では最も標高の高いところだ。風雪すさまじい。気温-10度,風速10mとして,体感温度は-20度を下回っている。
記念撮影用?の樹氷。樹氷のピークは2月だが,今年は例年より早くてもう見ごろを迎えているという。
これで「お前,蔵王の樹氷を見たことあるか?」と聞かれたときには「あります」と答えられるだろう。
風雪に打たれる蔵王地蔵尊。これはありがたみがある。お賽銭をはずんでおいた。北海道でスキー場にお地蔵さんがいるところなんてないだろう。
ところで蔵王の樹氷は北海道の樹氷とまったく異なるものだということがわかった。写真を見て単に木に雪が積もっただけではないかと思っていたが,違う。蔵王特有の気象が生んだこの樹氷はまさに芸術作品といえるもので,世界でも他にあまり例がないらしい。これは実際自分の目で見てみるまでわからなかった。触ってみるとパサパサしており,ちょっと触れただけで崩れて風に飛ばされてしまう。
コンクリートの柱にも樹氷ができていた。
少し青空が見えてきた。だいぶん粘ったがこれ以上天候は回復せず,下りのロープウェイに乗った。
樹氷ができるのは標高1400m付近から上だけで,少し下るともう普通の積雪地になる。
下りのロープウェイは空いている。ガラスの霜をガリガリ削りながら外を見る。
樹氷高原駅に着いたときにはちょうど15時15分発の整理券を回収しているところだった。
時間が余ったので,新左衛門の湯に入る。豪華な温泉で賑わっていた。3つの浴槽のうち源泉を引いているのが1つしかないのは物足りないが,髪を洗ったり髭を剃ることを考えると,シャワーを完備したこういう施設はやっぱりありがたい。ぬる目の露天風呂でみな好き勝手なことしゃべりながらくつろぐのはなかなか気分が良かった。ある青年がこんなことを言っていた。
「蔵王はスキーが1/3,飲みが1/3,温泉が1/3だ」
わたしはこれに「樹氷」を加えてもいいと思う。こんなに好条件がそろったスキー場は北海道にない。
16時40分のバスで山形駅へ戻る。