北海観光節旅行記秋の湯殿山・尾瀬

28. 楢葉町

これから常磐線を北上する。ホームの案内板は「仙台方面」の文字に張り紙がされ,竜田方面となっていた。

今年(2015年)1月31日に,竜田〜原ノ町間でJR代行バスの運転が開始され,仙台までJRで行けるようになった。ただ,相馬〜亘理間も含めて途中2度の代行バスを挟むという特殊な状況のためか,自動券売機では常磐線経由の経路が選べなかった。みどりの窓口では,特に問題なく通しで乗車券を購入することができた。

いわき7:50発→竜田8:23着 常磐線 竜田行き普通列車

電車8両編成での運行。人口が同程度なのに,せいぜいが3両編成の旭川との違いは何だろうか。

車窓はどこも彼岸花が見事だった。いわき市の北隣の広野町までは米の作付制限がなくなっており,普通の田園風景が広がっていた。

 

8時を過ぎ,お墓参りの人も増えてきた。

この先,仙台を経て,岩手県の釜石あたりまで,東日本大震災で軒並み震度6を記録した地帯に入る。

 

広野駅。福島第一原発から30km圏内にあるが,ここまでの線路は震災の年のうちに復旧している。小野町,さらにいわき市へと移転していた役場も,2012年3月1日に戻っている。津波が到達した駅裏では大きなオフィスビル「(仮称)広野東口ビル」の建設が急ピッチで進められていた。

木戸駅から楢葉町(ならはまち)に入る。楢葉町は,米に関して2015年度の時点で作付再開準備区域という位置づけで,本格的な作付け再開はされておらず,放置されている田畑が目立った。

また,このあたりから,震災直後に避難指示が出された福島第一原発の半径20km圏内となる。

そして,除染で取り除いた土の仮置き場と見られる,緑のシートで覆われた盛土が,あちらこちらで目に入るようになってきた。

これを,今後,大熊町,双葉町に建設される中間貯蔵施設に運び込み,さらに30年以内に,福島県外で最終処分を完了する計画となっている。廃炉作業とともに,見通しの立たない大変な事業である。

竜田駅到着。楢葉町の中心駅で,昨年(2014年)6月1日に広野からここまで常磐線の復旧が進んでいる。跨線橋は閉鎖され,使用していない1,2番線をふさいで橋が架けられていた。

震災でもなかったら,まず降りることはなかったであろう竜田駅。

いわき駅から,日本財団学生ボランティアセンターの「チームながぐつプロジェクト第126陣」が同行していた。4日目の活動とあって,みなさんお疲れのように見えた。ここからジャンボタクシーで移動するらしい。

楢葉タクシーの運転手さんの説明を後ろで聞かせてもらう。まずは慰霊碑をお参りすること,写真は自由に撮って良いが感情が高ぶっている人がいるので家の1メートル以内には近づいないことなどの説明があり,リーダーには線量計が託された。

運転手さんの話は,とても温かく感じられた。いまはもう,ボランティアと言っても何か懸命に作業するより,参加者側の勉強になる面が大きいと思うが,こういう地域の人たちの温かい心に触れることができ,それが地域の人たちの仕事にもなるなら,とても良いことなのではないかと思った。

 

駅舎の中では楢葉町写真展が開催されていた。

ただいまの空間線量率は0.167μSv(シーベルト)/h。平常値と比べるとわずかに高いが,健康上はまず問題がないレベルである。除染や放射性物質の崩壊によって,放射線量がかなり下がってきていることはたしかなようである。

駅前。人はいるけれども,店は閉まっており,人家にも人の気配がない。

楢葉町は,今年(2015年)4月6日以降,帰還に向けた準備のための宿泊が可能となり,今月9月5日に避難指示が解除されたばかりである。しかし,まだ医療施設や商業施設がほとんど再開していないため,町に帰ってきた人は少ないようである。

 

郵便局のポストにもシートがかけられたまま。

楢葉中学校は,現在いわき市の仮設校舎で授業を行っているという。この校舎は震度6強の地震で被害を受け,町内に新築された校舎での授業再開は2017年4月の見込みとなっている。楢葉町では今後1年半を徐々に住民が帰町する期間と位置づけており,2017年春からを本格復興期としている。今後,どのように復興していくか,その中で何が問題になっていくか,注目していきたい。

 

役場は2014年6月2日に本庁舎での業務を再開したが,現在も会津美里町といわき市に分室を有している。駐車場には警察の車が並んでおり,役場というよりも警察署の雰囲気だった。

役場の隣には,楢葉町仮設商業共同店舗「ここなら商店街」が2014年7月31日にオープンしている。

南側から福島第一原発に向かう場合,ここが最後の店になるため,開店以来大変に賑わっているようだ。

残念ながら開店前のため中を覗けなかったが,支度をしていた従業員の人たちが,おはようございますと元気にあいさつをしてくれた。

お墓参りの人たち。

 

趣深い道を歩き,駅へ戻る。

 

風宮龍田神社も放置されている状況。

常磐線はこの先,原ノ町まで復旧されていない。今後も段階的に不通区間は短縮されていく見通しだが,帰還困難区域を含む富岡〜浪江間は,現時点で具体的な復旧の見通しが立っていない。

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